
~成年後見制度との違いを踏まえた活用の実際~
近年、超高齢社会の到来により「認知症対策」や「財産承継の柔軟な設計」として注目されているのが 家族信託(民事信託)です。
家族信託の基本構造
家族信託とは、以下の4つの要素によって構成される契約です。
- 委託者:信託財産の信託契約前所有者(例:父)
- 受託者:信頼できる人に管理・運用を託される者(例:長男)
- 受益者:信託財産から利益を受ける人(通常は委託者本人)
- 信託目的:契約で定める管理・運用・処分の方向性(例:老後資金の確保、介護費用支払い、資産承継など)
家族信託とは、委託者が信頼する受託者に、自らの財産を一定の目的のために託し、その管理・運用・処分を行わせる制度です。
成年後見制度との違い:最も重要な注意点
家族信託の活用にあたり、特に注意すべき点は、受託者は後見人とは「全く異なる立場」であるという点です。
所有権の移転の有無
制度 | 所有権の移転 | 財産の管理権限 | 契約権限 |
---|---|---|---|
成年後見人制度 | 移転しない(本人名義) | 法律で限定 | 本人の法定代理人として契約可能 |
家族信託 | 受託者に所有権が移転(登記も受託者名義) | 委託者と交わした契約に基づく広範な権限 | ただし受託者名義ではできない契約もある(下記参照) |
成年後見人や代理人の場合、本人の財産の名義は変わりません。しかし信託契約を締結した場合、信託財産は受託者の名義に移転します。
たとえば、父(委託者)と長男(受託者)の間で信託契約を結んだ場合、信託財産となる不動産や預貯金はすべて「受託者:長男」名義に変更されます。
特に預貯金については、父の口座から長男名義の「信託口口座」に資金が移されます。見た目には受託者が自由に使えるように見えますが、実際には信託契約の目的に従って厳格に運用・管理される必要があります。
代理権・契約権の限界:入所契約は受託者ではできない
家族信託契約を活用しても、受託者が本人(委託者)に代わって全ての契約行為を行えるわけではありません。
たとえば、父が認知症を発症し介護施設への入所が必要となった場合、信託財産を管理する長男は、信託口座から入所費用や設備費を支払うことは可能です。しかし、長男が「受託者」という立場で、父の代わりに施設の入所契約を締結することはできません。
入所契約などの 本人の意思表示が必要な契約行為については、別途、成年後見制度を利用し後見人を立てる必要があります。
現段階であれば、親族として家族の立場で契約する例がございますが、厳密には「受託者」としてではなく、「親族」としての契約となります。
信託財産と非信託財産の取扱いの違い
信託財産とそうでない財産には、相続時の取扱いに明確な違いがあります。
財産の種類 | 取扱い |
---|---|
信託財産 | 相続財産に含まれず、遺産分割協議や遺言の対象外。信託契約に定めた後継受益者に引き継がれる。遺留分侵害額請求権の対象外 |
信託以外の財産 | 相続時に遺産分割協議や遺言の対象となり、相続人に法定・指定により分配される。 |
信託財産は、生前にすでに委託者から受託者へ名義が移っているため、委託者の死亡によって法定相続人に戻ることはなく、契約に従って受益権が次の受益者に移転します。
※信託が終了(委託者他界)することにより、残余財産は帰属権利者に移転しますが、終了時に第二受益者や第三受益者を設定しておくことで、信託を継続し、受益権を次の受益者へと引き継いでいくことも可能です。
たとえば、信託契約において父を受益者としていた場合、信託終了時に帰属権利者として母を指定することにより、父の受益権終了後に母に受益権が移転するよう設計できます。また、帰属権利者を定める代わりに、第二受益者を母、第三受益者を長男とすることによって、父の受益権が終了しても信託を継続し、母、長男へと順に受益権を移転させる仕組みとすることも可能です。
このように、契約に従って受益権が次の受益者に移転し、信託を柔軟に継続させることができます。
信託契約は複数に分けて設計できる
家族信託では、対象財産を分割して複数の信託契約を設計することも可能です。
たとえば、委託者に以下の財産がある場合:
- 預貯金3,000万円
- 自宅不動産
- マンション
- アパート
- 株券
- 自動車
このような分割設計が可能です:
- 預貯金2,000万円と自宅:長男に信託(信託財産)
- マンションと株券:次男に信託(信託財産)
- 残りの預貯金1,000万円と自動車:本人が管理(信託財産外)
このように、信託財産を柔軟に設定することで、家族間の役割分担や承継計画に応じた設計が可能になります。
※注意点※ 長男と次男で個別に契約し、長男に信託した自宅の修繕費が発生したので、次男に信託したマンションの利益で損益通算するといった事ができない点に注意が必要です。
信託できる財産について
家族信託において信託財産とすることができるのは、原則として「積極財産」に限られます。以下は、一般的に信託可能とされている財産の例です。
① 不動産、借地権、動産(ペットを含む)、金銭
不動産の所有権や借地権、車両などの動産、さらには金銭も信託財産とすることが可能です。
ただし、預貯金については注意が必要です。銀行などの金融機関との間で締結される預貯金契約には、通常「債権譲渡禁止特約」が付されているため、預貯金債権を直接信託することはできません。
そのため、預貯金を信託財産として管理するには、信託口口座(信託専用口座)を開設し、信託契約締結後にその口座に金銭を移す必要があります。
② 株式・知的財産権等
- 上場株式および非上場株式
- 著作権、商標権、特許権などの知的財産権
これらも、財産的価値を持つものとして信託の対象にすることが可能です。なお、非上場株式については、会社の定款による譲渡制限がある場合には、別途手続きが必要になることがあります。
③ 債権(請求権)・将来債権(未発生の請求権)
既に発生している債権(売掛金、貸付金など)や、将来的に発生することが見込まれる債権(将来債権)も、信託財産に含めることができます。
ただし、将来債権については、個別具体的に特定可能な内容であることが要件となります。
④ 信託できない財産(債務・連帯保証など)
借入金や連帯保証債務などの「消極財産」(債務等)は、信託財産とすることはできません。
信託の目的は、財産の承継や管理・運用を円滑に行うことにあるため、マイナスの財産は原則として信託の枠外となります。
まとめ:家族信託の本質と限界
家族信託は、柔軟で自由度の高い財産管理と承継手段として非常に有効な制度ですが、万能ではありません。
- 信託は所有権が受託者に完全に移転されるという点で後見制度と根本的に異なる
- 受託者は財産の管理・処分ができるが、本人の身上監護や契約行為の代理まではできない
- 介護施設の入所など「本人の意思を要する行為」には、成年後見人が必要(現状は、家族という立場で契約できるのが通例)
- 信託契約の内容次第で、その後の財産の流れや承継先が法定相続と異なる形になる
したがって、信託契約の設計段階から、将来の認知症発症や施設入所、死亡後の承継までを見据えたトータルプランニングが必要不可欠です。
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